ここでは活用形が3人称単数形hayのみという謎の動詞、存在のhaberについて詳しく見ていきましょう。まずは以下に例文を複数あげます。
Todavía hay esperanza.(There is still hope.)
Hay muchos accidentes tráficos aquí.(There are many traffic accidents here.)
No hay nadie en casa.(There is nobody home.)
¿Hay algunos problemas por resolver?(Are there any problems to solve?)
¿Qué hay en la olla?ーSopa de ajo.(What is there in the pot?ーGarlic soup.)
hayを使った表現が英語のthere is(are)〜にあたるのがわかりますね。人物事物の存在だけでなく、esperanzaやproblemaなど概念的なものの有無もあらわせます。なお、何があるかを尋ねたいときは¿Qué hay~?としましょう。
さて、上記の例文と対訳を比べてみて気づいたことはありませんか。英語対訳のほうは意味上の主語に応じてthere isとなったりthere areとなったりしているのに、hayは常にhayですね。活用形が1つしかないのでそうならざるを得ないわけですが、やはりなんとなく妙な感じがします。hayの原型であるhaberのルーツを知れば、この謎を解くヒントがつかめるかもしれません。
haberのルーツが暗示するヒント
haberはラテン語のhabēreに由来する言葉です。habēreはラテン語動詞habeōの不定形で、habeōには「~を持つ・有する・所有する」といった意味があります。ちなみにこのラテン語動詞、その形と意味からして英語動詞haveのご先祖さまのようにも見えますが、実は直接的関連はないとされています。いわゆる他人の空似なのですね。
スペイン語動詞haberが、所有の概念を示すラテン語の遺伝子を受け継いでいることを念頭に、3人称単数形hayを無理やり字義英訳するならば、さしずめhe hasあたりでしょうか。たとえばHay unas nubes en el cielo.はHe has some clouds in the sky.となりますね。英語対訳にあらわれるHe、これはいったい何者でしょう。clouds in the skyについて正当な所有権を主張できる人はいませんので、誰か特定の人間を指しているとは考えにくいでしょう。このことからHe=「神」とするむきもあります。clouds in the skyも含めこの世に「ある・いる」ものはみな「彼(神)が持っている」ものすなわち神の所有物である、という考えが存在のhaberに反映されているのでは、とする説です。もちろん仮説ではありますが、ラテン語をルーツとする国々の普遍的宗教観からして『当たらずといえども遠からず』といったところではないでしょうか。
文法的には、存在のhaberは主語がはっきりしないもしくは存在しない動詞とされ、このようなものを無人称動詞または無主動詞と呼ぶのですが…真偽は別として、所有の概念をルーツに持つhaberの隠れた主語を「神」だと仮定すれば、活用形が3人称単数形hayしかないのもうなずけます。さらには、hayに続く名詞は主語ではなく直接目的語なので、その名詞が単数であろうと複数であろうとhayは何の影響も受けない、という点も得心しやすいでしょう。
haber?estar?
存在のhaberについてそれなりに整理できたでしょうか。このhaberは非常に特徴的ですから、記憶に残りやすいかもしれませんね。ところで、似たような概念をあらわす動詞としては、be動詞にあたるestarもすでに持ち駒に入っています。haberとestarはどちらも「ある・いる」と訳されることが多いのですが、使い分けに明確なルールがあります。どんな場合にhaberでどんな場合にestarなのでしょう。これまでの流れでなんとなく想像がつきますか。次項で詳しく解説します。『目からうろこ』かもしれませんよ。