Lección 009 存在をあらわす動詞【1】

日本語で「ある・いる」と訳される表現、つまり所在と存在をあらわす英語表現はいくつかありますね。be動詞とthere is(are)〜がその代表でしょう。すでに取り上げたestarを用いる方法は前者に相当します。後者に近いのが、今回新しく学ぶ動詞haberを用いる方法です。

レアな動詞haber

このhaberは非常に変わった毛色の動詞です。唯一無二の存在と言っても過言ではありません。何がどう特別なのでしょうか。まずは以下の活用表を見てください。

主格haber
yohe
has
él ha/hay
nosotros hemos
vosotros habéis
ellos han

ほぼ完全な不規則活用動詞ですね。2人称複数形がer動詞の規則変化にのっとっているだけで、あとはすべてイレギュラーです。hで始まるという点だけは共通しているものの、全体的にar動詞とer動詞が混じったような語尾変化をしていて、1人称単数形などはなぜかeで終わるという奔放さです。これだけでも珍しいと言えば珍しいのですが…

それよりなにより、おかしなことに気がつきませんか。3人称単数形に注目してください。ha/hayとなっていますね。これは活用形が2つあるということでしょうか。そうなのです。なんと同一時制かつ同一人称に活用形が2つあるのです。このようなスペイン語動詞は非常にレアで、筆者の知る限りほかにはありません(万一あったらごめんなさい)。

haberのレアな用法

活用形が2つあるということは使い方も2つあるのでは?と推察した方、さすがです。haberには2つの用法があります。そしてそれぞれの方向性がまったく異なるのです。

2つのうちのひとつめは助動詞的な用法です。ここでは詳しく述べませんが(後の項で詳述しますのでしばらくお待ちください)、スペイン語においては「haberの活用形+過去分詞=完了形」であり、これは英語の「haveの活用形+過去分詞=完了形」に相当します。動詞haberと英語助動詞haveとが同じポジションを占めていて、両者が似た働きをしていることがわかりますね。スペイン語のほうは、動詞が助動詞の代わりをしているように見えます。完了形を作る係の助動詞はどこへ行った?と問いたくなりますが、実は、スペイン語には「助動詞」という独立した品詞カテゴリーは存在しないのです。英語なら助動詞が動詞をサポートするような場面で、動詞が動詞をサポートする。それがスペイン語のスタイルです。haberをはじめ、サポート要員としてカウントされている動詞はいくつもあり、それらは多くの場合、動詞としての用法と助動詞的な用法のふたつを併せ持っています。

さて、助動詞的な役割をするhaberは、主語に応じてhe-has-ha-hemos-habéis-hanと変化し、かなり不規則ではあるもののきちんと動詞らしく活用されます…といったところで気がつきましたか。3人称単数形その2(?)であるhayが見当たりませんね。どこへ行ってしまったのでしょう。

このhayは単独で全くの別枠に属します。それがふたつめの用法であり今回のテーマでもある存在のhaberです。このhaberには飛び抜けてレアな特徴があります。なんと、活用形がたった1つしかないのです。それこそが3人称単数形hay。助動詞的haberの活用に入っていなかったあの一匹狼、hayです。存在のhayは用法が非常に単純です。なにせ1時制につき活用形が1つしかないのですから楽勝です。次項で例文を交えながら解説しましょう。