「ある・いる」と訳される表現、つまり存在所在をあらわす表現がいくつかあること、haberを使うものとestarを使うものがその代表であることはすでに学びました。前項の最後で、この2つの使い分けには明確なルールがあるとお伝えしましたね。どんな場合にhaberでどんな場合にestarなのか、ここで整理しておきましょう。
存在?所在?
ここで改めて、haberとestarをそれぞれ辞書で引いてみてください。haberの項には「(存在)ある・いる」やそれに類する説明が、estarの項には「(所在)ある・いる」やそれに類する説明が記載されているはずですが、いかがでしょうか。日本語訳は同じなのに、用法が存在と所在とに分かれていますね。この2つはどう違うのでしょう。
存在は「有無」です。一方、所在は「場所」です。順序として、「場所」を問うのは「有無」の判明後です。したがって、後者すなわち存在を前提とした所在の話をするときは、すでにその正体が判明している名詞、つまり特定済みの名詞を主語とする、というのが自然ですね。ざっくりまとめると以下のとおりです。
haber=有無。「(存在自体が)あるかどうか」。主語は未特定であるのが自然。
estar =場所。「(存在を前提として)どこにあるか」。主語は特定済みであるのが自然。
英語の場合、未特定の名詞は無冠詞であったり、不定冠詞・数詞を伴ったりします。一方、特定済みの名詞は固有名詞であらわされたり、定冠詞(the)・指示代名詞(thisなど)・所有代名詞(myなど)を伴ったりします。スペイン語もしかりです。以上を踏まえると、haberとestarの使い分けについて次のようなわかりやすいルールが成立します。
実用的ルール
以下にあげる名詞はhaberとの相性がよくありません。estarを用いましょう。
〇固有名詞
Allí está María. ➡︎Correcto. Maria is there.
Allí hay María. ➡︎Falso.
…Maríaは固有名詞ですから、haberとはマッチしません。
〇定冠詞を伴った名詞
En la caja están los gatos. ➡︎Correcto. The cats are in the box.
En la caja hay los gatos. ➡︎Falso.
…名詞gatosが定冠詞losを伴っていますから、haberとはマッチしません。
〇所有形容詞または指示形容詞を伴った名詞
Mi gato está encima del techo. ➡︎Correcto. My cat is on the roof.
Mi gato hay encima del techo. ➡︎Falso.
…名詞gatoが所有形容詞miを伴っていますから、haberとはマッチしません。
ひとことで言えば特定済みの名詞ですね。前項で、存在のhaberは英語のthere is(are)〜に当たるとお伝えしましたが、ご存じのとおりthere is(are)〜と特定済みの名詞とは相性がよくありません。それと同じだと考えてください。上記3つの禁忌に当てはまらなければ、伝えたい主旨が存在なのか所在なのかを判断のうえ、存在ならばhaber、所在ならばestarを選ぶ、というのが基本です。このあたりはケースバイケースですね。
ところで、日本語の「ある」という表現は、イベントなどが「実施される・執り行われる」といった意味でも用いられますね。このような「ある」はスペイン語でどうあらわすのでしょう。実は既出の動詞で十分にことが足ります。詳しくは次項で説明しましょう。